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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)815号 判決 1948年12月24日

主文

原判決中被告人徳田弘に關する部分を破毀する。

右被告人に對する事件を仙臺高等裁判所に差戻す。

被告人徐甲洙の上告を棄却する。

理由

辯護人遠藤周藏の上告趣意第一點について。

原判決書に原審の審理に關與した檢事の官氏名の記載がないことも、そのことが刑事訴訟法第六九條第二項所定の判決書作成手續の規定に違反するものであることも所論のとおりである。しかし右のような手續規定の違反が必ずしも常に上告理由となるのではなくして、上告理由となるべき場合を列擧している刑事訴訟法第四一〇條は、その第二一號に「判決書ニ判事ノ署名若ハ捺印又ハ契印ヲ缺キタルトキ」を擧げ、その次の條には「前條ノ場合ヲ除クノ外法令ニ違反シタルコトアリト雖判決ニ影響ヲ及ボサルコト明白ナルトキハ之ヲ上告ノ理由ト爲スコトヲ得ズ」と規定しているから、判決書作成手續の規定に違反したことを理由とする上告は、判事の署名、捺印又は契印の缺けているとき、若しくはその手續規定の違反が裁判に影響を及ぼさないこと明白とはいえないときの二種の場合に限られるものと解しなければならない。從って判決書に公判に關與した檢事の官氏名を遺脱した違法があった場合においても、事実上檢事が公判に關與して被告事件の陳述を爲す等、公判審理の手續が適法に施行せられた以上、右の違法は判決に影響を及ぼさないこと明白であるから、これを上告の理由とすることはできない。記録を調べてみると、原審公判に檢事が立會い、その審理手續が適法に施行せられたことは、原審公判調書の上に明白であるから、原判決書に立會檢事の官氏名の記載のないことを理由として原判決の破毀を求める論旨は、適法な上告理由とならない。(同上告趣意第二點に對する判斷は省略する。)

辯護人松原正交及び相川耕平の上告趣意第三點について。

記録を調べてみると、原審第三回公判において、被告人徳田弘の辯護人關川重雄より證人として日赤病院の醫師某の喚問を求めたのに對して、原裁判所は檢事の意見を聽き、合議の上、右申出に係る證據調を採用する旨の決定を言渡したが、その第四回及第五回公判において、右日赤病院の醫師某を喚問することなく、又右證據調の決定を取消すこともなくして審理を終結し、第六回公判において判決を言渡したこと明白である。裁判所が證據調を爲す旨の決定をしたときは、自らその決定に拘束せられ、その決定を施行しなければならないことは勿論であって原裁判所の前記措置は違法である。もっとも原審第五回公判にとおいて、原審相被告人岡崎運作の辯護人南出一雄がさきに申出た證人日赤病院の醫師の喚問の申請を抛棄する旨を申出てはいるが、證據調の申請をしたのは被告人徳田弘の辯護人關川重雄であるに對し、申請抛棄の申立てをしたのは原審被告人岡崎運作の辯護人南出一雄であるから、前者の申請は後者の申請抛棄によって適法に撤回されたことにはならないのである。よって原審裁判所の訴訟手續は違法であり、論旨は刑事訴訟法第四一〇條第一三號によって理由がある。原判決は破毀を免れない。そうして右の違法は、事実の確定に影響を及ぼすおそれあること明白であるから、被告人徳田弘に關する原判決を破毀して同人に對する事件を原裁判所に差戻す次第である。

原判決中被告人徳田弘に關する部分は右の點に於て破棄せられるから、辯護人松原正交及び相川耕平の、その他の點に關する上告趣意並に辯護人加藤良二の上告趣意については判斷を省略する。

なお右の破毀の理由は、被告人徳田弘にのみ關することであって、共同被告人徐甲洙には關係のないことであるから、刑事訴訟法第四五一條の場合に該當しない。從って被告人徐甲洙に對する原判決は破毀しない。

以上の理由により刑事訴訟法第四四六條、第四四七條及第四四八条ノ一に從い主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 河村又介)

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